ハイドン:交響曲第73番ニ長調「狩り」

来月の演奏会でこの曲を演奏する。それほど有名な曲ではないが、ハイドンの「パリ・セット」以前の交響曲の中では屈指の名曲と思う。特に第四楽章のLa Chasse(狩り)は、一度聴いたら忘れられない快活さと旋律線を持っている。以下、私が作成した当日のプログラムに載せる曲目解説の原稿。
1781年後半に作曲されたこの交響曲に付けられている「狩り」の名称は、第四楽章のハイドン自身の注記“La Chasse”(狩り)に由来している。この曲の終楽章はハイドンのオペラ「報いられた誠」(1780年)の序曲を転用したもので、このオペラの中心人物が狩りの女神ダイアナであることから、ハイドンは序曲にホルンによる「狩りの動機」を盛り込んだ。
●第一楽章 (序奏)アダージョ ニ長調 四分の四拍子/(主部)アレグロ ニ長調 四分の四拍子 ソナタ形式
規模の大きな導入部に続くアレグロの主部は、主調の下属調から開始されるという不安定さを持っているが、それが音楽を前進させる力となっている。
●第二楽章 アンダンテ ト長調 四分の二拍子
主題は1781年春か夏に作曲された歌曲「愛の返礼」に基づいており、ひじょうに美しく親しみやすい旋律が、少しずつ雰囲気を変えながら繰り返されていく。
●第三楽章 メヌエット アレグレット ニ長調 四分の三拍子
動機的に統一が図られたメヌエット。トリオはオーボエとファゴットの二重奏にフルートも加わる。
●第四楽章 狩り プレスト ニ長調 八分の六拍子 ソナタ形式
八分の六拍子の快活な狩猟主題で始まり、トゥッティで属和音が奏されると音楽は一旦停止し、続いてオーボエとホルンで「狩りの動機」が奏される。展開部はホ短調から劇的な嬰ヘ短調を経て冒頭主題が再現されるが、その後の圧倒的な高揚の期待に反し、音楽は突然表情を穏やかにし静かに幕が下ろされる。

実際の演奏会のプログラムに載ることはほとんどないが、録音も多いとは言えず、私が知る限り、現在入手可能なのは、ドラティ、フィッシャー、ディヴィスの全集以外では、ファイ、ドラホシュ、カンブルラン、ズヴェーデン、鈴木秀美、アーノンクールくらいではないかと思う。それ以外では、ゼーリガー=ダルムシュタット・ホーフカペレ(CHRISTOPHORUS)、レオポルト・ルードヴィッヒ=バイエルン放送響(Electrola)、そして廃盤になっているのがオルフェウス室内O(DG)とホグウッド(L'OISEAU-LYRE)、ヘスス・ロペス・コボス盤(DENON)など。
そのコボス盤を図書館で借りてきた。オケはローザンヌ室内O、録音は1995年5月。第92番ト長調「オックスフォード」と第96番ニ長調「奇跡」が他に収録されている。オケは少人数だがクリアな音質でなかなか優れた演奏を聴かせる。肝心のプレスト/終楽章はややテンポが速すぎるのと、ヴァイオリンの8、10、12、14小節後半のfzが強調されておらずやや拍子抜け、とはいえ概して好演で特に第三楽章トリオでのオーボエとファゴットの二回目の装飾には納得させられた。なお、このディスクには大崎滋生氏による優れた解説が付いている。以下一部抜粋。

この作品は単独で1782年7月にヴィーンのトリチェッラから「作品34」として出版された。1780年代に入って地元ヴィーンでもハイドン楽譜の出版が本格化するが、同年2月にアルタリア社からも出版された音楽史上きわめて有名な「作品33」に直接次いだのが、このシンフォニー出版であった。それまで手書き譜で一部の特権階級のみに知られていたハイドンのシンフォニーが、この出版によってヴィーンの広範な人々の目に初めて触れることになった。しかしそのことは、シンフォニー作曲家としてのハイドンという観点からすれば、ひとつの危機の裏返しであった。というのは、エステルハージ宮廷でのシンフォニー演奏の必要度は数年前までに比べると著しく低下しており、エンターテインメントの中心は劇場に移って、廷臣としてのハイドンの職務は音楽監督の色彩が強くなっていた。かといってシンフォニック・コンサートの機会がまだ完全に消滅したわけではなく、彼はときにシンフォニーの創作にも向かった。
こうした事情は1780年前後のシンフォニーのあり方に如実に反映されており、すなわち、同時期のオペラや人形劇のために書いた音楽の一部を転用していシンフォニーが成り立っていることも多い。
(中略)
このように当時の視点で眺めてみると、この作品は、1780年代初めにおける、ハイドンなる音楽家のさまざまな側面の標本のような趣があり、もしかしたらこれは、ヴィーンで評判になり始めたハイドンが音楽愛好市民に対してシンフォニストとしての名刺代わりに書き送った作品であったかのように見える。

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  • 秋の演奏会(その1)終了

    Excerpt: 私の所属しているオケの演奏会を終えた。区の文化祭ということで昼夜二公演のため、13:00開演というややイレギュラーな開始ではあったが今回も多くの方々に聴きに来ていただいた。心から感謝の意を表したい。本.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2012-10-28 23:44